ネットストリーミングで「女殺油地獄」を観た。前回の視聴と同様令和6年夏休み文楽特別公演第3部の演目だ。
歌舞伎で鑑賞したことがあったので、抵抗なく受け入れられるかと思いきや、床がはっきり聞き取れなくて難しく感じた。第2部と同日収録なので、音響が原因ではなく太夫の個性なのだと思う。
人形は型が決まるとでもいうのか、絵になる姿があちこちにあった。と言うより、段が進むにつれ人形が生々しくなっていき、強烈な印象となっていった。例えば「徳庵寺堤」での喧嘩のパターン化された動きより、「河内屋」での与兵衛が身内を足蹴にしたり、顎を蹴り上げた時の重心の位置は的確で歌舞伎のそのシーンよりはるかにリアルだったし、木刀が母親のみぞおちに入る時には与兵衛が救いようのない悪党だと確信させられた。
話は通してお吉が可哀そうで仕方がなかった。情故に殺されてしまったのだと思う。初めから与兵衛を気遣いすぎて夫は苦言を呈するし、多分この時点で与兵衛から隙があると見くびられていたと思う。(実際彼女は一言余計だと思う。金子の額面をわざわざ言う必要はない。)豊島屋油店の段では逃げられたのに、逃げずに切り殺されてしまった。お吉は切られて一度戸口へ逃げていくのだが逃げ出ない。与兵衛が舞台中央で蚊帳で寝ている娘たちを見るからだ。お吉としては今店から逃げ出したら娘たちが惨いことになるかもしれないと思うのだろう。母親として当然の思考だ。そして、結局留まって与兵衛と対峙してしてしまい、殺されてしまう。まっとうな人間が地獄を見たのだ。愛情は使いどころを間違えてはいけないのだ。
地獄とは「地獄絵図の惨劇」ではなく、与兵衛に関わった者たちの人生が救われないことではないだろうか。
そうならば、「同逮捕」まできっちりやって落とし前を着けて欲しい。でないとお吉が浮かばれない。
2018年、2014年は逮捕まで上演したようだ公演情報詳細|文化デジタルライブラリー (jac.go.jp) 公演情報詳細|文化デジタルライブラリー (jac.go.jp)