26日から配信が始まった Vivaldi, Il Giusutino
18世紀のグスタフ3世時代の装置を残した劇場で上演されたものだ。
動画は演奏と、装置を操作する裏方の技術者たちの作業風景を所々に差しはさんだ
ものになっている。舞台背景の展開や奈落、音響効果などの殆どが人の手によって
動かされている。一方で照明や録音、映像制作は現代の機械化されたもので
それらの対比は面白い。
さて、Il Giustino はコメディなのか軽めのストーリーで(キャラの掘り下げがそれほど
でもないのに3時間持たせるのはスゴイ)、舞台の演出は「グスタフ3世と仲間
たちが上演している」という設定だ。
アナスタジオを演じるグスタフ3世は Rffaele Pe ラッファエーレ・ペでお気楽な
お婿さんの皇帝とマイペースな王様を演じている。(王様はモブは嫌なので
出番以外は好き勝手をやっている)
"Vedro con mio diletto" と "Sento in seno" は聴かせどころだ。(グスタフが
ストーリーに関係なく歌っちゃいました、という演出だ)
敵役のアマンツィオを演じるのは Federico Fiorio フェデリコ・フィオリオで、
なぜだか演奏中セリが下がってしまったり照明がなくて裏方を呼びつけたりと
演出方と相性が悪く、芝居上での悪役は18世紀のリアルでも嫌われ者なのかしら、
と思ってしまうほどだった。
多分、人の手を借りているとこの様なミスがあったことだろうという考証なのだろう。
しかし、フェデリコの演技は細かく作りこまれていたので、画面から見切れてしまう
のは残念だった。
ユーリ・ミネンコ Yuriy Mynenko のジュスティーノは名を成すことに拘っている
割にアリアンナに言い寄っていて、意外と志の低いキャラだった。騎士としての
心得がないのだろう。
ヴィタリアーノ役のホアン・サンチョ Juan Sancho はいつもより高音域を使って
いてアグレッシブだ。
軽やかでファンタジーに進んだ舞台はラストで劇的に変わる。大団円の
仮面舞踏会のシーンはグスタフ3世暗殺事件が起きた場面のよう。スリリングだ。
ストーリー上は途中で翻意する仇役のヴィタリアーノだが、敗戦国の王であり、実は
ジュスティーノの兄と発覚した。ジュスティーノがアナスタジオの腹心になったのに
乗じて復権を図ろうとしたのだろうか。
さらに、アナスタジオのジュスティーノへの計らいに始終不満を持っている
アマンツィオがヴィタリアーノに接触を試みている。
そして、アマンツィオの一押しとヴィタリアーノの意思は、騎士ではない
(平民として生きてきた)ジュスティーノを暗殺者として拳銃を持ちアナスタジオの
背後に立たせて幕が降りる。発砲音に似せた本を閉じる音に反応するアリアンナ
(役のソフィア王妃)が意味深だ。
もしくは、仮面舞踏会はグスタフ3世の宮廷で、芝居の演者の中に暗殺者一味が
紛れていたのだろうか。
そういえば、第一場の終わりアリアンナがアナスタジオに忠誠を誓いながら死んで
いくと切々に歌う場面では、グスタフ3世は王妃ソフィア・マグダレナの姿と重ねて、
物見しながら立ち去ってしまう。
ここはグスタフ3世と不実の噂を立てられた王妃ソフィア・マグダレナとのすれ違う
夫婦関係を重ねているようだった。
このように、今回の演出はドラマとグスタフ3世の宮廷を行ったり来たりしている。
圧巻の演出だ。